バカボンダ  世界を見た女の地球放浪記

2015.6.5

嵐が丘2 24 UK滞在記

wutheringHight

Wuthering Height「吼える高地」・・これが「嵐が丘」の原題です。

気持ちよく、可憐なお花畑が広がって、羊が草を食む風景、のどかな田園を眺めながら歩くこと1時間、アスファルトの舗装道、砂利道を通り過ぎ、はるか昔に目にした標識だけを頼りに「本当にこの道でいいんだろうか・・」と不安を胸に歩くこと1時間、ようやくこの荒野にたどり着きました。

荒々しい岩場、枯れた芝、360度さえぎるものが何も無い平原、ここに緑がなかったならば、まさに風吹き荒れる、慟哭の響き渡る荒野となるのでしょう。

けれども、ミネラルウォーターを流し込み、やっとの思いでのどを潤し、一息つくと、私の前には一面の緑、それを覆う紫のヒースが広がっていました。

ヒースは芝のような、茎の細い低木です。だから風に逆らわないのです。東から風が吹けば西になびき、上から吹きつける風にはあっさりと頭を垂れるのです。こうして季節ごとに風に吹かれていると、ヒースの群生は波打つように、独特のカーブを描いていました。細く枯れたヒースの枝先に紫の小さな花が実っています。すずらんのようでもあり、カスミソウのようでもありました。大きな波が岩に打ちつけ、そのしぶきが散った波の花、その波頭が白ではなく紫に色づいている、そんなイメージもっていただければ、この情景を描写できるのでしょうか。

ゴッホの描く風景の中には一定の規則的な曲線、細かな「うねり」が凝縮されたような乱流型(フラクタル?)が見出せるといいます。荒々しい自然を凝縮したようなヒースの曲線は、ゴッホのこのフラクタルに似ていました。じっと凝視していると、時間の概念の無い世界に、すーっと吸い込まれていきそうな、時空をこえた「ところ」に連れて行かれそうな気がしました。

今、ここには嵐ではなく、そよ風が吹いています。ヒースの紫が風に優しく流されています。かつて、私の姉、シスターメアリーが佇んだ場所はここだったのでしょうか?

見渡す限り、私のほか人影は何も見えませんでした。いくつも離れた丘の上に申し訳程度に民家が見えるのです。深く息を吐き、耳を澄ますと聞こえるのは羊の鳴き声ばかりでした。

この荒野から見えるのは一面のヒース、いたるところヒース、ヒースです。正面の丘が茶と紫で染まっています。これまたヒースなのです。嵐のような突風ではなく、穏やかな風に雲が流されていき、雲が動くたびに太陽の光がヒースを照らしていました。

これは2005年のイギリス滞在記録の抜粋です。
UK滞在記全文あるいは他国への旅行記はこちらをご参照ください。
http://yukina-s.com/global/index.html

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