バカボンダ  世界を見た女の地球放浪記

2015.6.6

紫が目にしみる 25 UK滞在記

HeathWeb時はとても、ゆっくり流れていました。

バサバサと静寂を破る音が荒野に響きました。驚いて振り返ると、鳥の群れが、瞬く間にヒースのいばらから舞い上がり、遠くの丘に消えていくのです・・

ヒースの紫は人工的で刺激的な色ではなく、茨の緑と荒野の赤茶に溶けてしまいそうな淡い風味を持っていました。自然が作り上げた色彩は美しいなぁ・・・。海の青を見たとき、深い森の緑を眺めたときと同じ、心地よい感動がありました。今、この広大な空間を自分一人が独占している、そう思うと、なんという贅沢、そして何という幸せだろう、こんな感情が沸き起こってきました。

こう考えていると、紫が、ヒースの紫が目に染みてきました・・

荒野の終点に、かつて「嵐が丘」を創作したといわれる廃墟がありました。ここを折り返し地点として、また草の海の一本道をたどっていくのです。自分の足元にも、両脇にも、そして正面にも紫のヒースが広がっています。傾きかけた太陽がヒースの斜面を照らします。深い紫が一瞬淡いピンクに変わります。

これと同じ光景は、世界中どこに行っても、おそらく見ることはできないだろうなぁ・・ふとそんな気がしました。集落に近づくにつれて、ヒースの畑の中に背の高い植物の群生を多くみるようになってきました。麦の穂のような、特徴的な花と葉の形です。近づいてみると、枯れてしまったアザミだわかりました。おそらくここは、7月中はアザミの原野になるのでしょう。これまた美しい自然の紫だなぁと思うのでした。

ここ、ハワース行きのバスはキースレイという駅からでます。キースレイで日本人の年配の女性と知り合いました。イギリス文学の世界、とりわけ「嵐が丘」が大好きで毎年この地を訪れているといっていました。聞けばこの方も、大学に入り、現役の学生として文学を専攻しているそうです。英語が楽しく、イギリス小説を原書で読むことが面白くてしょうがないと彼女は言っていました。

おそらく彼女のように格別の思い入れがあり、自然の叫びがこだまする荒野に思いを馳せる人にとっては、7月のアザミも8月のヒースも感無量の紫となるのだろう、そう思いました。

イラストはユキーナ・サントス画、「ヒースの丘」

これは2005年のイギリス滞在記録の抜粋です。
UK滞在記全文あるいは他国への旅行記はこちらをご参照ください。
http://yukina-s.com/global/index.html

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